beautiful world

ぼくはまた君に恋するんだろう

「おかえりモネ」第24週感想〜水たまりと彩雲〜

闇雲にでも信じたよ

きちんと前に進んでいるって

よく晴れた朝には時々

一人ぼっちにされちゃうから

ヤジロベエみたいな正しさだ

今この景色の全てが 笑ってくれるわけじゃないけど

それでもいいこれは僕の旅

昨夜の雨の事なんか

映して キラキラ キラキラ

覚えていないようなお日様を

昨夜出来た水たまりが

息をしている

 

高く遠く広すぎる空の下

おはよう 僕は昨日からやってきたよ

失くせない記憶は傘のように

鞄の中で出番を待つ

 

手探りで今日を歩く今日の僕が

あの日見た虹を探すこの道を

疑ってしまう時は教えるよ

あの時の心の色

 

 

「なないろ」

歌 : BUMP OF CHICKEN

作詞 : 藤原基央

作曲 : 藤原基央

 

BUMP OF CHICKEN「なないろ」は言わずもがな「おかえりモネ」の主題歌。十人十色という言葉があるけど、幼なじみ6人+菅波先生の7人の「なないろ」なのか。見ている視聴者ひとりひとりが一色足すのか。ヤジロベエみたいな正しさで日々揺れる旅を全員が生きている。

 

「おかえりモネ」第24週「あなたの思う未来へ」

(最初に言っておきますが、ここから先は私の思う物語、すべて世迷い言です)

 

「僕の旅、君の旅」

「彩雲」を「見ると良いことがあるって聞きました。本当でしょうか」と聞いたモネに気象予報士の朝岡さんが答える。「迷信でしょう。でも、空を見て、雲が綺麗だと思えた時点で、その人は前向きになれていると僕は思います」

晴れやかな顔で空を見上げるモネ。

 

その頃、亮は「漁師の仕事、きっついわ」と笑いながら、車から未知をさり気なくかばう。にこやかな笑顔は絶やさずに。未知も亮に会えた喜びをガッツポーズで示す。

階段を降りるモネの足元を気遣ったり、何か抱えてそうなモネを話しやすいように海岸に連れていったり。常に人のために動く亮。

一方、誰も見ていないところでは暗い顔をして昼から居酒屋にいる父親を迎えに行ったり、酒屋で父親に酒を売らないようにと頼んだりする。

水たまりに映るお日様を見ていた日々だったんだろうか。空を見上げることもなく。

 

モネが部屋で塞ぎ込んでいた高校時代、亮は家に帰りたくない日を過ごしていたのかもしれない。(プリン金髪はその名残り?)

 

森林組合での仕事の成功、気象予報士試験合格、東京でのテレビ出演、菅波先生との奇跡の再開。

トントン拍子に進んでいるに見えるモネとは対象的に、いまだ漁師見習いの亮。台風の際に、一瞬、耕治さんや他の皆のために船に乗ったのに、また乗らなくなってしまった父親。

 

陽の道を空を見上げて歩くモネと、陰の道を地道にひたすら歩く亮。

並行する二人の道が交わったのが15週と16週。

 

茶店「アバンドーネ」※1)。縁側と同じような二人だけの穏やかな空気感の中、ぽつりと亮の本音が語られる。

「周りの期待に応えるってさ、案外楽なんだよ、最初はね。でも段々苦しくなる」

 

父親が電話に出なかったことで、モネに縋ろうとする亮。彼氏がいると分かっているのに。一時的な救いは彼のためにならないと拒絶するモネ。(清原さんが「冷たいんじゃないか」と悩んだのは人として当然だと思う)

「死ぬほど好きで大事なやつがいるとかさ。その人、目の前から消えたら自分がぶっ壊れる」

 

そして、二人の進む道は離れていく。再び交わるのは三年後。

 

地道に仕事や貯金をしてきて周りの信頼を得ている亮と、信頼関係が築けずに仕事も上手くいかないモネ。二人の立場は逆転しているようにも見える。ウサギと亀の物語のように。

 

「大事な人のそばにいたい」と気仙沼に帰ってきたモネ。何故かそのことは手紙でしか言わない。本音を見せないモネに亮が言うのは「綺麗事」。嵐の後、はまらいんプラザで「綺麗事って言ったのは、モネの仕事を否定したんじゃなくて」「分かってる」モネの言葉に遮られ、それ以上は続けない亮。お互い、その後を聞いてしまったら、気持ちが抑えられなくなるからなのかもしれない。

 

未知の待つ喫茶店「シベリア」※2) に向かわずに2時間も前に来た菅波先生と話をする亮。モネの相手がどんな人か知りたかったのか。

 

「19対5か………分が悪いな」

「19対5って?」

「島であなたがたと過ごしてきた年数と僕と出会ってからの年数。」

「いや、でもそれは」

「ええ。そんなことで揺らぐほど自信が無いわけじゃない」

「すげえな………」

「ただ、羨ましいと思います。」

「あなたやあなたの友人の皆さんが共有している彼女と過ごした時間を僕は持っていない。苦しかった経験も」

地震の映像)

「すいません。羨ましがるものではないとは思っています」

「そんなに大事だと怖くなりませんか?そんなに大事な人も、いつか無くすかもしれない。もしも、その人が目の前から消えたら………」

「怖いですよ。残念ながら僕らは、お互いの問題ではなく、全くの不可抗力で突然大事な人を失ってしまうという可能性をゼロにはできません。未来に対して僕らは無力です。でもだから、せめて今、目の前にいるその人を最大限大事にするほかに、恐怖に立ち向かうすべは無い」

苦しかった経験さえ共有できるのが羨ましいと言う先生。亮がシベリアに向かったのはモネの幸せを願って身を引いたのか。自分を待ってる人を大事にしようと思ったのか。無神経な部外者には分からないと諦めたのか。「分が悪い」と言っていた形勢が逆転する。

 

「こないだ言ったことだけど」

「回想(大事な人につらい顔させんの嫌だよ。)」

「私は大丈夫」

「考えてた、ずっと。こんなにいろんなもん、一緒に背負うことない。一緒に生きていくなら、こんな面倒くさいやつじゃなくて、俺らのことなんか初めから何も知らない人と」

「そんなの……」

「そんな人のほうが、みーちゃん、楽に笑えんじゃないかなって。」

「楽に笑いたくて、一緒にいる訳じゃない」

「ずっと気になってたんだけど」

「何?」

「時々、俺より苦しそうなんだよね」

「やっぱ何かにずっと縛られてきたんだろうなって。感じることがある。そういうのは、俺だから感じてやれんだよな。ほかのやつには絶対分かんない。でも、俺なら、みーちゃんの抱えてるもん、分かんなくても想像できる。それは俺らだからだし」

「みーちゃん、心の底から笑えるようにしてやれんの、多分、俺しかいない」

「いつか笑えるようにしてやる」

「俺さ、あの嵐ん時ね。ひっくり返りそうな船の中で、このまま死ぬかもとか全然思わなかった。ただ、一個だけ、みーちゃんに会いたいなと思った。」

先生と会って、部外者のほうが傷つけることに思い当たったのか。「死ぬかもとは思わなった」のに「みーちゃんに会いたいな」と思ったのは愛情か。何故こんな回りくどいのか。「死ぬかもしれないと思ったら、一目だけでも、みーちゃんに会いたかった」ではダメだったのか。

嘘ではないだろうけど、上記の「死ぬほど大事な奴が〜」のセリフに比べるとあまりにも軽い。

未知のトラウマ※4)はモネが解決してしまったけど、「俺だからできる」「笑えるようにしてやる」は亮には無理だったのかな。

(最後まで四角関係を盛り上げるためにだけのセリフだったと言われても仕方ないよ。)

 

未知からの電話に涙を流すモネ。頭では分かっていても、感情が抑えきれなかったようにも思える。

この瞬間、亮とモネは「死ぬほど好きで大事な人」を失うことにケリをつけて、ソウルメイトとして側で生きていくことを決めたのかもしれない。恋は冷めることもあるけど、愛は永遠。サヤカさんとヒバの木のように。

 

未知についても、もうひとりで抱えこんだりしない。素直にモネに頼ることができる。

 

未知の大学入学(と亮の船購入)祝い、永浦家にひとりでやってくる亮。誰に迎えに来てもらうでもない。欲しかった車※3)を買ったんだろうか。

もう、いつでもどこにでも自分で行ける。とらわれていた亮はいない。

 

あの日、高校受験に落ちたモネに言ってやりたかった言葉も優しく言える。

「おかえり、モネ」

 

船の進水式

「どうよ!親父!俺の船だ!」と両手を広げる亮。手をあげる新次。

「行ってくる」と父親に、次いで未知に声をかける。モネも未知も頷くが、「行ってらっしゃい」とも「待ってる」とも言わない。それが亮を縛ることにもなるから。「行ってくる」船の上から最後に言ったのは誰に向けてなのか。

 

空を見上げる亮。

カモメやウミネコを見れば母を思い、風を感じれば父を思うのか。雨が降ればモネを。港の灯りを見れば未知を。

もう転ばないように水たまりに映る太陽を見ていた少年はいない。起き方を知っているから。ヒーローに救われるのを待つのではなく、自分が自分のヒーローだから。

はるか遠くの未来のために、目の前にある今日を、まっすぐに見つめる亮。

「行くぞ!」

 

胸の奥 君がいる場所

ここでしか会えない瞳

ずっと変わらないままだから

ほっとしたり

たまに目を逸らしたり

 

思い出すと寂しいけど

思い出せないと寂しい事

 

忘れない事しか出来ない

夜を越えて 続く僕の旅

治らない古い傷は

 

無かったかのように隠す お日様が

本当はキラキラ キラキラ

昼間の星と同じだね

 

この街中に

歯磨きして顔洗って着替えたら

いつもと同じ足で出かけようぜ

相変わらずの猫背でもいいよ

僕が僕を笑えるから

 

涙の砂 散らばる銀河の中

疲れた靴でどこまでだっていける

躓いて転んだ時は 教えるよ

起き方を知っている事

 

乾いて消える水たまりが

それでもキラキラ キラキラ

青く揺れる

 

高く遠く広すぎる空の下

おはよう 僕は昨日からやってきたよ

失くせない記憶も傘のよう

 

鞄の中で明日へ向かう

 

手探りで今日を歩く今日の僕が

あの日見た虹を探す今日の僕を

 

疑ってしまう時は

教えるよ あの時の心の色

いつかまた会うよ

戻れないあの日の 七色

 

https://youtu.be/ZvFs03X944E

 
「総評」

ひとことふたことではとても言えない作品。駄作と切り捨てるものでも、感動の良作と諸手をあげて賞賛できるものでもない。

登米気仙沼も自然はとても美しかったし、人間ドラマも描かれていたと思う。

毎日15分によくこれだけ詰め込んだと思えるほどの内容だったし、俳優さんたちの演技も見応えがあった。ミスリードの連続で演技プランも難しかったろうに。

美しいタイトルバックに流れる「なないろ」も毎回聴いては泣きそうになっていたし。

それこそヤジロベエみたいに、良いときと悪いときの間をゆらゆらしていたようなドラマだったなあ。

 

安達さんの作家性と、オンデマンドやSDGsなどオーダーと、制作の成功体験が噛み合ってなかった気がする。

「(亮が)痛みを抱えたまま、平気な顔でいつづけるのは辛いでしょ」

「まずは、ここが痛いって言わせてあげるだけで良いんじゃないですか?ここが痛い、まだ痛いと口に出して言えることは本人の心を軽くします。解決が無理でも、それで糸口が見つかることもある」

「先生の言葉は時々キツいけど、それがないと困る」

「これも重荷になるかもしれないけど、頑張れ」

この言葉から怒涛のトラウマ引出しが始まる。それは本当に正しかったのか。結果的に解決に向かったけれど、それを見て辛い想いをした視聴者も沢山いたのではないか。自分事として考えてもらえるように、議論してもらえるように、SNSで話題になるようにとの目的だとしたら、一番の悪手だと思う。かばうとすれば、ヒロインでも医者でも闇雲に信用するのは間違いだということになるけど。(魚協での亮の、情報を値下げしようとしているモネへの「焦るなよ」は「頑張れ」との対比かな。利益を出せという先生と、2年経ってもまだ利益出てないというモネ。自分の価値を下げなくても良いってことだよね)

 

人生は選択の連続。その中では間違えることもある。一度口にした言葉は消えないし、その時間に戻ってやり直すことはできない。

 

新次さんは亮の電話に出るべきだったし、モネは「正しいけど冷たい」じゃない対応を取るべきだった。

考察の裏の裏をかいた策は、ただの表になって伏線も小道具も無駄になり、ミスリードが単なるミスになってしまう。当初の予定通り、2019年で終わる話なら違っていたかもしれないけど。

 

だからこそ、その時の選択は最善だと信じて進むしかない。過去の失敗にも成功にもとわられず、今を大切に生きるべきだってメッセージだと、私は勝手に受け取ったよ。合ってるかどうかはともかく。

 

清原さん、蒔田さん、廉くん、浅野さん、その他のキャストの皆さん、スタッフの皆さん、ありがとうございました。

 

※1) アバンドーネ(abandonneは音楽用語。「感情の赴くままに」「自由に」「拘束されずに」の意味あり)

 

※2) シベリアはカモメの産卵地。日本で越冬したカモメが春夏に帰る場所。だからカップルばかり。ただし、気仙沼にいるのは渡り鳥ではなく溜鳥のウミネコ(=亮と未知)。ウミネコには寒すぎて生きていけないし、場違いでもある。テーブルも小さすぎる。これでは「問題をテーブルに乗せる」ことができない。

未知は「研究、大学、亮くん」の三択(そもそも、この条件が間違いだけど)で悩んでいたのに普通に考えると亮を選んだから大学は止めるってことだと思うんだけど。

永浦家での「育てるほうが良いのかあ………」とか、本当に二人、付き合ってる?

 

※3) もちろんHONDA。

 

※4) 後出し感があった津波だけど、もともとは考察追記の②だったんじゃないかな。これなら亮にしか救えない。モネが救うために変えたんじゃないかな。演者も知らされてなかったんだろうね。

 

最後に、フォロワーさんに教えてもらったCocco「強く儚い者たち」を置いておきますね。

https://youtu.be/Scu5zZ0M4Cs

 

(11/12追記)

廉くんのラジオで、先生との対話シーン及び喫茶店についての演出のお話がありました。内容の解釈は分かれると思いますが、言葉を選んで話す廉くんの賢さを垣間見ることができて良かったです。