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ぼくはまた君に恋するんだろう

「夕暮れに、手をつなぐ」第7、8話感想〜確かに迷いながら〜

貴方はどうして僕に心をくれたんでしょう

貴方はどうして僕に目を描いたんだ

空より大きく 雲を流す風を呑み込んで

僕のまなこはまた夢を見ていた

裸足のままで

 

貴方はゆっくりと変わっていく

とても小さく

少しずつ膨らむパンを眺めるように

貴方はゆっくりと走っていく

長い迷路の先も恐れないままで

 

貴方はどうして僕に名前をくれたんでしょう

貴方はどうして僕に手を作ったんだ

海より大きく 砂を流す波も呑み込んで

小さな両手はまだ遠くを見てた

 

あくびを一つ

僕らはゆっくりと眠っていく

 

とても長く頭の真ん中に育っていく

大きな木の根本をゆっくりと歩いていく

長い迷路の先を恐れないように

 

いつかとても追いつけない人に出会うのだろうか

いつかとても越えられない壁に竦むのだろうか

いつか貴方もそれを諦めてしまうのだろうか

ゆっくりと変わっていく ゆっくりと変わっていく

 

僕らはゆっくりと忘れていく

とても小さく

少しずつ崩れる塔を眺めるように

僕らはゆっくりと眠っていく

ゆっくりと眠っていく

 

貴方はゆっくりと変わっていく

とても小さく

あの木の真ん中に育っていく

木陰のように

貴方はゆっくりと走っていく

長い迷路の先も恐れないままで

 

確かに迷いながら

 

『アルジャーノン』 

歌:ヨルシカ

作詞作曲:n-buna

 

「夕暮れに、手をつなぐ」

第7話「別れに、手をつなぐ」

演出:山内大典

第8話「愛の終わり」

演出:金井航

 

良い意味で、迷路に彷徨い込んだような感覚を覚えるドラマ。

 

いまは、ストレートにまっすぐゴールまで伏線回収しながら進むのが良い脚本とされているけど(確かに好きだけど)、リアルではそんなことはありえない。みんなゴールがどこなのかも分からず、時には懸命に、時には恐る恐る進んでいる。それは若い人だけじゃなくて、大人も同じ。

 

「鬼になれ」とあえて退路を断ち、娘の夢を後押しした空豆のおばあちゃん。そのことが正解だったのか間違いだったのか知る由もない。ある意味では正解で、ある意味では間違いだったのだろう。※1)

スランプに陥り、空豆のアイデアを盗作してしまう久遠。プライドを捨てても構わないと思えるくらいの目を奪われるデザイン。妬みではなく、称賛の土下座。空豆には耐え難いだろうけど。

 

夢の入口の苦悩、夢を叶えた後の苦悩、どちらも同時に描く凄い脚本。クリエイターならではの「業」も感じる。

 

壁にぶつかり、後退りしたり、戻ったりするのは仕事面だけではない。恋愛でも。

 

出会った頃をもう一度再現するように、ロミジュリのように2階から名前を聞く空豆と音。

「あのときからもう一度やりたい。楽しかったけんね」「おれもおもろかった。お前とおると人生退屈せんわ」

いつもは標準語の音の関西弁。もはやプロポーズ。だけど、はっきりと言葉にしない二人の距離は離れていく。※2)

 

行けなかった花火。

消えてしまうしゃぼん玉。

暖かくなって片付けるコタツ

 

ただ、音と一緒に来たお手玉は消えない。

パンドラの箱の中に希望が残ったように。

 

 

※1 空豆ママのブランド「コルザ」って「菜の花」って意味だよね。もう少しやり方はあったとは思うよ。こどものトラウマにならずに済む方法。見るたびに胃が痛くなる…

 

※2 エンケンさんとすずちゃんの対峙とか、廉くんの泣き笑いとか、毎回凄い演技合戦……