beautiful world

ぼくはまた君に恋するんだろう

映画「法廷遊戯」感想、考察〜罪と罰と赦し 

「法廷遊戯」は2020年現役弁護士である五十嵐律人先生の同名小説を映画化したもの。

キャッチコピーは「誰も暴いてはいけない死の秘密」。

※原作読了していますが、ずいぶん前のことなので細かいところはあやふやです。間違えていたら申し訳ありません。

 

1.美鈴の罪と罰

(罪)偽証、詐欺、殺人

(罰)世界で一番大切なものを失う

(赦し)ネグレクトを受けて施設に来た美鈴は、根本的な面で他人を信じられなかったのかもしれない。清義のくれたドロップと空だけが信じられるものだったのかな。

ぬいぐるみだけが友達のモノクロの世界に色を付けてくれた清義。

施設でも虐待を受けて、電車でも痴漢に会って、無機質な部屋に住んで。友達もいなさそうで。「親御さんは泣いているぞ」より「やり直せる」がフックだったのがつらい。どこからやり直せるんだろう。生まれる前から?

おそらく弁護士も自身の夢ではなく、清義が目指すと言ったから清義を守るために勉強したんだろう。このまま、誰もいないところでしか下の名前で呼べない二人に未来はあったのかな。金魚鉢の中で暮らしていける訳でもないのに。ガラスが割れてしまえば終わりなのに。

 

2.馨の罪と罰と赦し

(罪)盗聴、盗撮、名誉毀損、罪を暴く

(罰)殺される

(赦し)馨の父は、まさしく無辜の人。だからこその優しさが放った言葉が人を傷つけて結果的にあんなことになったのだとしたらそれは罪と言えるのかもしれない。だったら罪を犯していない人なんてこの夜には存在しないんだけど。

どこにいても美鈴と清義のことを突き止めてはいたと思うけど、どうして清義とあんなに仲良くなれたんだろう。目の前にいたら殺しかねないほどの憎悪を向けてもおかしくない人なのに。法律を勉強する上で罪と人を切り離せるようになったからか。二人の境遇に同情する余地があったのか。清義のあまりにもピュアな人柄に惹かれたのか。

司法試験の半年前に嫌がらせを行ったのは、二人に弁護士になってほしくなかったのかな。(誹謗中傷で未来が絶たれるとすればそれはそれで同害報復だよね)どこか自分の計画が潰れることを望んでいたのかもしれない。(怖くなって自首するとか?)

 

3.清義の罪と罰

(罪)殺人未遂、詐欺、傷害

(罰)弁護士バッジ剥奪、自首して罪を償う?

(赦し)そんなに恵まれてはないだろうに美鈴にドロップをあげることのできる清義。家庭教師先の教え子から手紙をもらったり、学生仲間から「セイギ」とあだ名を付けられたり、教授から名指しで相談されたり、あんな劣悪な環境で生きてきたとは思えないくらいな好人物を絵に描いたような人。魂がピュアなのかもしれない。きっと虐待じゃなくて何らかの事情で施設に住むことになったんだろうか。だから馨も清義に友情を感じていたんだろうな。

大学生になってメガネからコンタクトに変えて、優しい下宿のおばさんにも助けられて、自分のことを誰も知らない世界で、人生をやり直したかのように見えた清義。それはただ、過去に蓋しただけの薄氷の上であって。清義自身も大人の被害者だと思ってただろうし、当時は被害者にも家族がいるなんて考えもしなかっただろう。

 

「君を助けるのは暴力じゃなくて知識だ」

この言葉を素直に受け止められる感性を持った清義なら、例え弁護士じゃなくなってもどこでも生きていけるだろう。バッジは無くなっても、頭の中の知識は、弁護士になるための努力は誰にも奪われない。過去に向き合って初めて、自分の人生を生きられるのだとしたら、あの終わり方にも納得できる。罪を償った先に、美鈴を迎えに行きそう。

 

(戯言)

  • 家庭教師の教え子の手紙、真夜中のエア家庭教師を思い出して泣きそうになった……"私"くんも出会う人が違っていれば……
  • 名前が絶妙なんだよね。「みすず」と呼ばれ続けただろう「みれい」とか、「セイギ」なんだけど、「正」じゃなくて「清」とか、清義に合ってる。「馨」も「良い影響を与える人」だし。
  • 無辜ゲーム、原作で読んだときはそんなに思わなかったけど、洞窟ってのもあって法律が定まる以前の前時代的な魔女裁判みたいだった。もちろん、法律に基づいているんだろうけど、人が人を裁く怖さとか、私刑の怖さを視覚的にも訴えるものだった。We Will Rock You(直訳:あなたにゆさぶりをかける)みたいな足踏みも蝋燭も。
  • 法律も危ういところがあるけど、それでもなお、法律でしか裁くことはできないよね。
  • 一番泣いたのは、下宿のおばちゃんのおにぎりでした。良いところ見つけたね。弁護士になっても住んでいるところも良い。(美鈴は引っ越してそう)
  • 「着替え持ってきたよ」の優しいところも好き。新品だとしてもサイズとか知ってるってことだよね。恋愛関係通り越して家族でも。(高校生からサイズ変わらなそうだけど)(恋愛以前に共依存であり、執着だと思っているけど)
  • 三者三様の演技力を堪能させていただきました。花ちゃんがどんどん美しくなるの凄かった。何もかも知ってそうで何も顔に出さない匠海くんも。ちょっとした目線や表情で語る廉くんも。
  • 映画に映っていないところをついつい想像してしまう。美鈴が正気を取り戻して弁護士として清義を弁護するのか(資格喪失要件に当たる?当たらない?)。司法試験合格の日(原作はロースクールで二人だけだったような)には二人でささやかなお祝いしたのかなって。

 

https://youtu.be/74tJ05V8vb0?si=MMBhn9mkTyr_2iIZ

主題歌「愛し生きること」に救われた。

「生きていくこと」が最大の贖罪かもしれない。

 

 

 

 

King & Prince「愛し生きること」MV考察メモ

「愛し生きること」はKing & Princeの14枚目のシングル。2023.11.8発売。

 

https://youtu.be/74tJ05V8vb0?si=a9n4SSGjPx_qcJ6E

 

少女は誰なのか?なぜ消えた?

そもそもここはどこなのか?

花の意味は?

いくつもの疑問が湧いてくるMV。

 

① 少女は誰なのか。なぜ消えたのか。

  • 水が貴重な砂漠で草花の種に水をあげる少女。
  • 諦めの表情で歩くレンに花の種を見せる。
  • ほとんどの人は気にも留めない。
  • 彼女に気づいた人だけが、彼女のために発電機を用意し、灯りを灯す。料理を振る舞う。家族ではないけれど、家族的な仲間。
  • 毛布をかけてあげたり、絵本を読んであげたり、小さな子どもとして扱ってあげるカイト。
  • 隕石(?)が落ちてきて、逃げ惑う群衆に少女が育てた芽が踏まれる。群衆と反対に走る少女、カイト、レン。
  • 少女の姿はなく、後には種の入った小瓶と絵本が残される。
  • 隕石が破裂し、誰もが覚悟を決めたけど、何も起こらなかった。
  • 廃墟に戻ると一面に花が咲いている。
  • 少女の魔法?
  • 少女=誰しもが持つ大切にしたいもの。
  • 少女の種=未来への希望。
  • 少女の絵本=フィクションの力。未来を夢見ること、過去を忘れないことの大切さ。

 

② 廃墟と砂漠

  • 近未来?
  • どこにでもありそうな商業施設。現代(MVでは過去)なら少女の年の子どもたちが親や祖父母に連れてこられて楽しんでいたに違いない。
  • 荒廃した大地の原因は隕石による天変地異?
  • 他人を顧みない現代の現実の心象風景かもしれない。
  • 妊娠したら街に妊婦がいっぱいいるのに気がつくように、怪我をしたら街の身障者や老人に気がつくように、普通の人には子どもや老人は見えてないのかもね。
  • 最後の瞬間。まっすぐ目を逸らさずに見つめる人、全てを受け入れて目を閉じる人。そして……

 

③ 終わらない世界で生きていく

  • 世界は終わらなかった。不安が解消された訳ではないが、それでも生きていく。
  • 花は一夜の魔法(未来)?
  • 隕石が消え、平和になった世界には他にも人がいるかもしれない。
  • 小瓶に入った少女の残した種をこの地だけでなく、他の土地にも植えて世界中を花でいっぱいにするのが生き残った者の務めなのかも。
  • 続けること、諦めないことが大事。
  • 絵本の虹は、恐らく雨も降ってこなかっただろう大地に雨が降ることを示唆している?いつか花(希望)であふれる世界になることを切に願う。

 

以上、思いついたことをただただ並べるだけになってしまいました。

 

永瀬廉くん、髙橋海人くんの演技力が遺憾なく発揮された作品だと思います。大勢の人に見つけてもらえると嬉しいです。

 

  

『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』考察感想〜君だけの色も形も優しさも強さも〜

『Paradise』

 

昔々きいた話

ふたつの虹を超えたその向こう

光り輝く泉がある

その水面映るのはほんとの自分

 

しあわせは今 しあわせは空

Let's fly, fly & fly

We fly & fly目と目を合わせ

信じあえるよ 感じあえるさ

Let's fly, fly & fly

We fly & fly いつか

わかるだろう 君にはもう君だけの

色も形も優しさも強さもあるんだ

 

上手くいかなくたって

失敗ばっかりだって

ぼくはここにいるよ

 

I love you so much 大好きなんだ

そのままで 大好きさ Paradise

宝物はそこにあるよ 気がついてよ

世界中探しても

君は君しかいないよ

広がる楽園 繋げよう 誰も誰もが Paradise

 

雨が降ればぬかるむ道

道端に咲いた花に集まる蝶を

照らす太陽は全てを温め乾いた道に

雨は降る あたりまえだけど奇跡

 

小さなちっぽけな今には

大きな大きな夢が詰まっているの

悔しさに泣いたって

手を差し伸べるから

ぼくはここにいるから

 

| love you so much 大好きなんだ

そのままで大好きさ Paradise

宝物は君なんだよ 気がついてよ

ひとりひとりの Paradise

この惑星の歴史にも

君は君しかいないよ

目には見えないけど確かに

ひとりひとりの Paradise

 

しあわせは今 しあわせは空

Let's fly, fly & fly

We fly & fly目と目を合わせ

信じあえるよ 感じあえる

だから大丈夫

心のまま行こう Paradise 

 

 

 

 

歌:NiziU

作詞: AKIRA ・Bang Chan・Changbin ・ HAN (3RACHA)

作曲:Bang Chan・Changbin (3RACHA)・ HAN (3RACHA)・VERSACHO

 

最初に言っておきますが、雑食オタクのひとりごとです。○年ぶりのドラえもん映画なので、ドラえもん好きな方との解釈違いも多々あると思います。どうかご容赦ください。

 

1.エヴァンゲリオン+ミッドサマー

第一印象がこれだった。

 

エヴァ人類補完計画とは「出来損ないの群体として既に行き詰まった人類を、完全な単体としての生物へ人工進化させる計画」。大雑把に言うと他者と自己が同一なら争いはなくなるという意味。

 

カルトとは知らずにホルガ村に行った大学生たちも、ちょっとした好奇心とかトラウマ解消、研究のためだったりする。

 

宗教にハマるのも、現実社会で上手くいかなかったり、ちょっとした好奇心だったりするのかもしれない。二度と戻れないと夢にも思わずに。しっかりしているように見えるハンナもしずかちゃんもパラダピアにきてしまったように、ほんの少しのきっかけで誰にでもありえることなんだろう。

 

 

2.ユートピア

トマス・モア著『ユートピア』はギリシャ語で「どこにもない国」の意味。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%94%E3%82%A2_(%E6%9C%AC)

当時のヨーロッパ社会の風刺であり、奴隷制があったり、今日の感覚では理想郷とはほど遠く感じられる。

(奴隷=クリオネアだったりソーニャだったりするのかな。四次元ポケットを取られたり、腕輪はその象徴だよね。ちなみにクリオネには脳がない)

 

「争いも犯罪もない」パラダピアだけど、三賢人が庶民の上位職だったり、バッヂの色が変わったり、明らかに上下関係はあるのが怖い。陶芸シーンも線を一本描くだけだったり、クリエイティブなことを考えるのも個性だからダメなんだろうな。

 

算数体育も楽しそうだけど、誰も解き方も考え方も教えてくれない。応援するばっかり。

ジャイアンスネ夫も優しくなったけど、それは本当の優しさなのか。夜中にわざわざ声掛けにきてくれた友達の話を聞くこともなく、決まりを守ることにしか興味を持たない。自分でなぜ決まりを守らなければならないのか考えることもしない。

 

端的に言えばマインドコントロールなんだけど、こういうのってカルトのコミューンだけじゃない。戦時下のドラマなどでもよく見るのが他人事じゃなくて怖い。

 

じゃあ、何故、のび太にだけはパラダピアンライトが効かなかったんだろう。

空気を読まない、読めないからかな。

いつも何かを考えているのび太だから、のび太らしさが世界を救ってくれたんだと思う。

 

 

3.がらくた

ソーニャは売れ残りで、飲食店で働いていたけど失敗ばかりで捨てられたところを三賢人(博士)に拾われてパーフェクトに改造してもらった。

ドラえもんも製造工程でネジの外れた不良品でオークションにかけられたけど、野比家に貰われた過去がある。

どちらも本当は子守ロボットなのに。

 

ソーニャが売れ残ったのは黒猫だからかもしれない。保護猫でも黒猫は不人気らしいので。

コロナ禍でペットを飼う人が増えた分、飼育放棄も増えている。ペットにも心があるのに。

 

物語の最初のほうで、使えないひみつ道具をただ捨てるのではなくてリサイクルに出すのも、中古の飛行船を買うのも、がらくたとして捨てない生活ということだよね。

 

 

4.虹

虹にはいくつか意味があるような気がする。

  • タイムツェッペリン号が旅立つときに出た虹は「希望」の象徴。冒険のワクワク感がある。
  • その裏ではソーニャが頑張っているんだけど😢
  • 「虹の下は土砂降り」ということわざを思い出した。誰かがキレイだと外から見ている内側では苦労している人もいるんだよね。
  • 「虹」は「LGBTのレインボーフラッグ」のように「多様性の象徴」でもあるね。ポスターのひこうき雲の虹は「多様性」の意味かな。
  • ペットを飼っている人なら一度は聞いたことがあるかもしれない「虹の橋」の言い伝え。飼い主に先んじて亡くなったペットが虹の橋で飼い主が来るのを待っているという作者不明の物語。ソーニャにはもっと早く、みんなと会って笑ってほしいな。

 

 

〈その他番外編〉
  • ソーニャの初登場シーン。来迎図(信者が亡くなると迎えに来てくれる仏様)かとびっくりした。
  • 脚本の古沢良太先生はEテレで「こどものための哲学」の脚本も書いておられる。その経験が生かされている本だと個人的には思う。
  • ソーニャの最初の抑揚のない話し方から徐々に心を取り戻す声の演技が自然すぎて。毎回、役に対する理解力が凄いよね。
  • 藤子F不二雄さんはSF(サイエンスフィクション)を「すこしふしぎなものがたり」と言っておられたんだけど、パンフレットのインタビューで廉くんがさり気なく、だけど自然に「すこしふしぎな」と使っていたのにびっくりした。知っていたのなら流石すぎる。
  •  

 

「夕暮れに、手をつなぐ」第9、10話考察感想〜誰もがきっと心痛み隠して〜

Keep it up, keep it up yup

 

ぼんやり目擦りながらback home

I'm burnt out, I'm going to bed

即寝落ちで 週末予定立たない

募る小さな後悔 down

会いたいも叶わないdays

 

一体何が正解だなんて誰もわからない

でも俯いてちゃ気付けないね

煌めくblue sky

 

Everything will be alright って感じで

何度でも夢見よう

Yeah! It's gonna be alright どんな日も

されど愛しきlife

 

Let's live it up

Let's live it up

Let's live it up Let's live it up

Let's live it up

 

顔上げて alright

Let's live it up

 

一回きりの人生でしょう

ツライ Monday 期待のweekend

キミとのday 何時間もくだんない talk All night 笑い合っていたいね

 

そう誰もがきっと心 痛み隠して

躓き凹んだりするたび 感じるyour love

Everything will be alright って感じで

キミが笑うだけで

Yeah! It's gonna be alright

飛べそうなくらい

どこまでもゆこう

 

Let's live it up

Let's live it up

Let's live it up

Let's live it up

 

キミとならalright

Live it up

 

消えない story

変わらないよ you and me

泣き笑い また明日に恋しよう

And laugh, and laugh baby

You'll be all right

 

Everything will be alright いつだって

響き合うmelody

Every little scene そっと灯すmy heart

一人じゃないさ

 

Let's live it up Let's live it up

Let's live it up

Let's live it up キミとならalright

let's live it up

 

「Life goes on」

歌:King & Prince

作詞: 木村友威

作曲: Joacim Persson・JohanAlkenas・SQVARE Sean・Michael Alexander

 

 

「夕暮れに、手をつなぐ」

第9話「本当にさよならだ。」

演出:渕上正人 脚本:北川悦吏子

第10話「音のない世界」

演出:金井紘 脚本:北川悦吏子

 

終わり良ければ全て良し、と言いたくなる素敵な最終回だった。

 

1.モノを作るということ

いつの日か「モノ作りは好かん」「遠くの人を楽しませる人は、近くにいる人を悲しませるっとよ」 と言っていた空豆

「ものをつくるっ てのは、人間がいちばん遠くまで行ける手段なんだよ」 と言う響子さん。

 

まるで恋に落ちたかのようにショーウィンドウのドレスに目を奪われ、デザイナーとしての道を歩みだし、響子さんの言ってたようにコルザに入ってパリでコレクションに関わるようになった。自分が遠ざけていたモノ作りこそが母親との縁を繋げたのだ。

 

だけど、「なんのために誰のために作ってるのかわからんようになった」「おいは目の前の人が幸せになるのが見たか」と生まれ故郷に帰ってしまう。

 

それは久遠が言うように、デザイナーが誰でも通る道なのかもしれない。もったいない、神様のギフトという気持ちも分かる。

だが、空豆は夢に破れた訳ではない。自分のやりたいことを見つけた、という気がする。農作業のしやすい服。洋裁を教える仕事。そして、音とセイラのためのステージ衣装。いつだって、空豆は目の前の人が喜ぶ服を作りたいのだ。

 

「楽しいことをやっていきたい」と言う空豆に久遠は言う。「生きていくのが楽しいだけのやつなんていない」「楽しみながら戦うんだよ」

スランプに陥り一度は空豆のアイデアを盗作した久遠だけど、才能に恵まれない自分を真っ直ぐに見つめ、「経年変化」を楽しむほどに成長した。大人だって成長できる、そんな素敵なメッセージ。

 

成長したのは塔子も。成り行きとは言え、二度と戻らないつもりだっただろう実家に帰り、母親と会い、エレベーターも付ける。(個人的には空豆に付けてほしかったけど、塔子が付けたいって言ったんだろうな)

 

音も、成長を見せた。最初はどこか自信無げで、流されがちだったけど、誤解していた空豆に会いたい気持ちをぐっとこらえてレコーディングに向かう。空豆との約束通り、セイラを守り、紅白出場を果たす。「やっとここまで来れました」との紅白初出場インタビューでの言葉はアーティストとしても、男としても感慨のこもった言葉だったのかもしれない。何も言わず雰囲気でキスしようとしたときには水鉄砲をかけられてごまかされたけれど、今回ははっきりと口にする。「好きだ」と。

モノ作りが音と空豆を結びつけてくれた。

 

2. 許し

娘の夢のために心を鬼にして里心がつかないようにしていた祖母。口はつっけんどんだが、娘の、孫の、夢の後押しをしてくれる。外国に行ってしまうなんて寂しいだろうに。

塔子もまた、そんな母親の愛情を感じてきた。そして、娘のことも一度も忘れたことはなかったのだろう。娘との想い出の菜の花畑を自分のブランド名にして。

 

かつて「気取って東京弁喋りよる」と言われた塔子は、バス停で空豆に方言で語りかける。

空豆はそっと手を繋ぐ。昔、したかったように。

簡単に「許す」とも言わない空豆。過去は変えられないし、子供の頃に受けた傷が簡単に癒やされる訳ではない。だけど、手の温度は何よりも雄弁だ。

 

セイラの告白。震えながら、ありったけの勇気を振り絞って。音も空豆も怒ったり、変に慰めたりもしない。ただ、ありのままを受け止める。そして変わらず接し続ける。「俺も空豆も変わらない」との言葉通りに。セイラが自分自身で向き合わなければならないことだから。だから、セイラは空豆の衣装で歌い続けるのだろう。単なる数字ではない再生してくれたひとりひとりのために。

 

3.手紙

音から空豆への手紙。デジタルでどこででも繋がれる時代だからこその宝物。

 

「俺たち、まだ夢の途中だろ? お互い頑張ろう、永遠の同士へ。また会える日まで。タフに生きよう。」

 

ドラマとリアルを混同するのは良くないけど、メンバーのことを思って泣いてしまったよ😢

 

 

4.最後に

まぎれもなく空豆と音の恋の物語なんだけど、それにとどまらない「繋がり」の話だった気がする。

翔太との小さな世界で生きてきて、それが全てだと思っていた空豆が、音と出会い、自分の足で生きていくことを知り、世界が広がって。誰も知り合いもいなかったのに、見送りにきてくれる人がいて。

真っ暗闇の中にいたセイラにも、才能がないと諦めかけていた音にも、仲間ができて。

素敵な物語だったな。

 

 

広瀬すずさん、永瀬廉さん、他のキャスト、スタッフのみなさん、北川先生、繊細な物語に奥行きと深みを足していただいてありがとうございました。

あんなにキュートな空豆と、海よりも深い優しさを持つ音に会わせてくれてありがとうございます。

 

「夕暮れに、手をつなぐ」第7、8話感想〜確かに迷いながら〜

貴方はどうして僕に心をくれたんでしょう

貴方はどうして僕に目を描いたんだ

空より大きく 雲を流す風を呑み込んで

僕のまなこはまた夢を見ていた

裸足のままで

 

貴方はゆっくりと変わっていく

とても小さく

少しずつ膨らむパンを眺めるように

貴方はゆっくりと走っていく

長い迷路の先も恐れないままで

 

貴方はどうして僕に名前をくれたんでしょう

貴方はどうして僕に手を作ったんだ

海より大きく 砂を流す波も呑み込んで

小さな両手はまだ遠くを見てた

 

あくびを一つ

僕らはゆっくりと眠っていく

 

とても長く頭の真ん中に育っていく

大きな木の根本をゆっくりと歩いていく

長い迷路の先を恐れないように

 

いつかとても追いつけない人に出会うのだろうか

いつかとても越えられない壁に竦むのだろうか

いつか貴方もそれを諦めてしまうのだろうか

ゆっくりと変わっていく ゆっくりと変わっていく

 

僕らはゆっくりと忘れていく

とても小さく

少しずつ崩れる塔を眺めるように

僕らはゆっくりと眠っていく

ゆっくりと眠っていく

 

貴方はゆっくりと変わっていく

とても小さく

あの木の真ん中に育っていく

木陰のように

貴方はゆっくりと走っていく

長い迷路の先も恐れないままで

 

確かに迷いながら

 

『アルジャーノン』 

歌:ヨルシカ

作詞作曲:n-buna

 

「夕暮れに、手をつなぐ」

第7話「別れに、手をつなぐ」

演出:山内大典

第8話「愛の終わり」

演出:金井航

 

良い意味で、迷路に彷徨い込んだような感覚を覚えるドラマ。

 

いまは、ストレートにまっすぐゴールまで伏線回収しながら進むのが良い脚本とされているけど(確かに好きだけど)、リアルではそんなことはありえない。みんなゴールがどこなのかも分からず、時には懸命に、時には恐る恐る進んでいる。それは若い人だけじゃなくて、大人も同じ。

 

「鬼になれ」とあえて退路を断ち、娘の夢を後押しした空豆のおばあちゃん。そのことが正解だったのか間違いだったのか知る由もない。ある意味では正解で、ある意味では間違いだったのだろう。※1)

スランプに陥り、空豆のアイデアを盗作してしまう久遠。プライドを捨てても構わないと思えるくらいの目を奪われるデザイン。妬みではなく、称賛の土下座。空豆には耐え難いだろうけど。

 

夢の入口の苦悩、夢を叶えた後の苦悩、どちらも同時に描く凄い脚本。クリエイターならではの「業」も感じる。

 

壁にぶつかり、後退りしたり、戻ったりするのは仕事面だけではない。恋愛でも。

 

出会った頃をもう一度再現するように、ロミジュリのように2階から名前を聞く空豆と音。

「あのときからもう一度やりたい。楽しかったけんね」「おれもおもろかった。お前とおると人生退屈せんわ」

いつもは標準語の音の関西弁。もはやプロポーズ。だけど、はっきりと言葉にしない二人の距離は離れていく。※2)

 

行けなかった花火。

消えてしまうしゃぼん玉。

暖かくなって片付けるコタツ

 

ただ、音と一緒に来たお手玉は消えない。

パンドラの箱の中に希望が残ったように。

 

 

※1 空豆ママのブランド「コルザ」って「菜の花」って意味だよね。もう少しやり方はあったとは思うよ。こどものトラウマにならずに済む方法。見るたびに胃が痛くなる…

 

※2 エンケンさんとすずちゃんの対峙とか、廉くんの泣き笑いとか、毎回凄い演技合戦……

 

「夕暮れに、手をつなぐ」第5話、第6話感想〜空の青さを知る

呼んでいる 胸のどこか奥で

いつも心躍る 夢を見たい

かなしみは数えきれないけれど

その向こうできっと あなたに会える

 

繰り返すあやまちの そのたび ひとは

ただ青い空の青さを知る

果てしなく 道は続いて見えるけれど

この両手は光を抱ける

 

さよならのときの静かな胸

ゼロになるからだが 耳をすませる

生きている不思議 死んでいく不思議

花も風も街もみんなおなじ

 

呼んでいる 胸のどこか奥で

いつも何度でも 夢を描こう

 

かなしみの数を 言い尽くすより

同じくちびるで そっとうたおう

閉じていく思い出の そのなかにいつも

忘れたくない ささやきを聞く

 

こなごなに砕かれた鏡の上にも

新しい景色が映される

はじまりの朝の静かな窓

 

ゼロになるからだ 充たされてゆけ

かなしみの数を言い尽くすより

同じくちびるでそっとうたおう

 

閉じていく思い出の そのなかにいつも

忘れたくない ささやきを聞く  

こなごなに砕かれた 鏡の上にも

新しい景色が映される

 

はじまりの朝の静かな窓

ゼロになるからだ 充たされてゆけ

 

海の彼方にはもう探さない

 

輝くものはいつもここに

わたしのなかに見つけられたから

 

 

「いつも何度でも」

千と千尋の神隠し 主題歌

歌:木村弓

作詞: 覚和歌子

作曲: 木村弓

「いつも何度でも」は2001年「千と千尋の神隠し」の主題歌。なにものでもない普通の子が働いたり人と関わることで成長する物語。

 

「夕暮れに、手をつなぐ」

第5話「君の隣で眠る」

演出:金井紘 脚本:北川悦吏子

第6話「君が好き」

演出:山内大典 脚本:北川悦吏子

 

アンダーソニア出社の前夜、眠れない空豆はリビングの炬燵で、音の斜め横で眠る。足先だけを重ねて。

時計の針のように。

まだ先の見えない二人が寄り添う暗い夜。

月明かりの窓から優しい光が差しこむ。

 

 

5話の冒頭、ファストファッションとのコラボ打ち合わせ中、縫製のことでもめる久遠。「服はゴミじゃねえ」使い捨て文化とでもいうものに怒る姿には創作者としてのプライドが見える。

「感情を抑えるな。自由じゃないと物を作ることはできん」「自由に思い描け。汚いことも綺麗なことも心のままに。それがファッションの原点だ」「自由でいることは難しいぞ」「俺たちはファッション。流行を作るが流行に縛られる」

「だが俺は(流行でも好きでないものは)作らん。それが自由だし、アンダーソニアの矜持だ」

久遠の言葉、ファッションにも音楽にも脚本にも、あらゆるクリエーターに当てはまる気がする。

 

「この世は地獄だ」

「ランキング地獄だ」

デビュー前から自分を安売りしないプライドの持ち主だったのに、マンボウは最新曲の売行きが悪いのを機に引退する。

 

自分を偽って髪も切らずに音とユニットを組もうとしていたソイ(アリエル)はマンボウの元へ行く。自分にとって大切なものが分かったアリエル。

 

デビュー目前の明るく希望にあふれたはずの音なのに、厳しい現実が立ちはだかる。

 

「ミューズが必要なんじゃない。この人に作ってみたい。この人に着てほしいっていう創作の女神よ。」

なかなか納得できるデザインが浮かばない空豆に千春が伝える言葉。

 

音の作る曲を聴いてみただけで、いくつものイメージが溢れでてきた空豆

音のために即興でドレスを作ったゲリラライブ。

音のために見つけた歌姫。

 

空豆が救った音楽。

自分の曲で泣いてくれた空豆

真っ先に聴かせたいひと。

 

お互いがお互いのミューズなのだろう。

 

冬なのに夏生まれの空豆の誕生日を「もうすぐ」と言う塔子。おそらく、ずっと頭の中に空豆のことがあったはず。塔子にとってのミューズは空豆だったのか。

 

 

これから音も空豆もセイラも日の当たる場所でそれぞれの花を咲かせるのだろうか。仕事が終わって、ほっとできる夕暮れの時間を一緒に過ごせるようになるといいな。

 

「夕暮れに、手をつなぐ」第4話感想〜愛を歌えば言葉足らず〜

高架橋を抜けたら雲の隙間に青が覗いた

最近どうも暑いからただ風が吹くのを待ってた

 

木陰に座る

何か頬に付く

見上げれば頭上に咲いて散る

 

はらり、 僕らもう息も忘れて

瞬きさえ億劫

さぁ、今日さえ明日過去に変わる

ただ風を待つ

だから僕らもう声も忘れて

さよならさえ億劫

ただ花が降るだけ晴れり

今、春吹雪

 

 

次の日も待ち合わせ 花見の客も少なくなった

春の匂いはもう止む

今年も夏が来るのか

 

高架橋を抜けたら道の先に君が覗いた

残りはどれだけかな

どれだけ春に会えるだろう

 

川沿いの丘、木陰に座る

また昨日と変わらず今日も咲く花に、

僕らもう息も忘れて

瞬きさえ億劫

 

花散らせ今吹くこの嵐は

まさに春泥棒

風に今日ももう時が流れて

立つことさえ億劫

 

花の隙間に空、散れり

まだ、春吹雪

今日も会いに行く

木陰に座る

 

溜息を吐く

花ももう終わる

 

明日も会いに行く

春がもう終わる

 

名残るように時間が散っていく

愛を歌えば言葉足らず

 

踏む韻さえ億劫

花開いた今を言葉如きが語れるものか

 

はらり、 僕らもう声も忘れて

瞬きさえ億劫

 

花見は僕らだけ

散るなまだ、 春吹雪

あともう少しだけ

もう数えられるだけ

 

あと花二つだけ

もう花一つだけ

 

ただ葉が残るだけ、 はらり

今、春仕舞い

 

『春泥棒』

歌 ヨルシカ

作詞作曲 n-buna

 

「夕暮れに、手をつなぐ」

第4話「秘密のキス」

演出:山内大典 脚本:北川悦吏子

 

福岡の交差点で取り違えたイヤホン。

東京の噴水で再開したとき、音はすぐに空豆に気付いていたけど、空豆も覚えていた運命の出会い。その時は翔太と一緒だったから覚えていないことにしていたのかも。

 

心踊らせるドレスを見せて「帰るなよ」「いろよ」と言われた空豆は大袈裟に音に聞く。「おいと結婚すると?」と。ウエディングドレスなのだから結婚をほのめかしたと思われて当然なのを確かめたのだろう。だが、音は否定する。「他力本願さもしいって言ってたばかりやん」と関西弁(素の言葉)で。

 

居酒屋を2件ハシゴして朝帰りの音と空豆。カラオケとかじゃないところが二人らしい。いくらでも話足りないんだろうな。気が合うなんてもんじゃない二人。

 

だからこそ、友達から恋人への一線を超えるのが怖い。捨てられるのが。捨ててしまうのが。(音は元彼に去られたけど、見方を変えれば夢と彼女との普通の生活を天秤にかけた、とも言えるよね)

 

「おいはダサい」

「振り切ったほうがバカにするほうもバカにしやすい」

伊勢丹やらバーニーズに大東京トレーナーで行く空豆。美醜感覚が無いわけではないのに。独特のガサツさも、「おい」に象徴される空豆語も、田舎での自分を守る鎧だったのだろう。翔太が「ジュリエット」ではなく「金太郎」を空豆に演じさせてクラスの人気者になったように。そうやって守ってくれたように。

 

だが、本当に空豆はジュリエットを演じたくなかったのか。

 

自分の容姿が良いのも自覚していた空豆。目立っていじめられるのを恐れていた空豆。だからあの時はあれで正解。

それとは別に、空豆の本心はどうだったのか。

空豆が喜ぶと思って指輪を渡した翔太は、本当に空豆のことを、空豆がやりたいことを知っていたのか、知ろうとしていたのか。

 

1話でロミオとジュリエットのようにお互いの名前を教え合う空豆と音。

2話で空色のワンピースを着た空豆に「それ似合ってる」「見違えた」と素直に褒めてくれる音。

先回りせずに空豆がしたいことを導いてくれる音。

ジュリエットでも大東京でも変わらずに接してくれている。

 

夢に向かう一歩を踏みださせてくれた音のスニーカー。

「このドレスを着たらどこへでも行ける気しない?」

心踊らせるドレスを着た空豆の足にはスニーカーは見えない。

これから春になってキレイになるだろう空豆にはもうスニーカーは似合わないのか。

 

7日だけお姉さんの空豆

夢に一歩先にたどり着いたかに見える音。

溢れんばかりの才能の片鱗を見せる空豆

 

初めてのキスでさえもすれ違う二人。

「春泥棒」の想い出が共有される日は来るのかな。

 

 

(追記)

どうでも良いけど、庭ラジ想い出リクエストガーデンにこの「春泥棒」イヤホンのリクエスト来たら、「マジで?そんな偶然ある?」っていじってくれそう。それでもそんなこともあるかもしれないと受け止めてくれそうだよね、廉くんって。