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ぼくはまた君に恋するんだろう

映画「法廷遊戯」感想、考察〜罪と罰と赦し 

「法廷遊戯」は2020年現役弁護士である五十嵐律人先生の同名小説を映画化したもの。

キャッチコピーは「誰も暴いてはいけない死の秘密」。

※原作読了していますが、ずいぶん前のことなので細かいところはあやふやです。間違えていたら申し訳ありません。

 

1.美鈴の罪と罰

(罪)偽証、詐欺、殺人

(罰)世界で一番大切なものを失う

(赦し)ネグレクトを受けて施設に来た美鈴は、根本的な面で他人を信じられなかったのかもしれない。清義のくれたドロップと空だけが信じられるものだったのかな。

ぬいぐるみだけが友達のモノクロの世界に色を付けてくれた清義。

施設でも虐待を受けて、電車でも痴漢に会って、無機質な部屋に住んで。友達もいなさそうで。「親御さんは泣いているぞ」より「やり直せる」がフックだったのがつらい。どこからやり直せるんだろう。生まれる前から?

おそらく弁護士も自身の夢ではなく、清義が目指すと言ったから清義を守るために勉強したんだろう。このまま、誰もいないところでしか下の名前で呼べない二人に未来はあったのかな。金魚鉢の中で暮らしていける訳でもないのに。ガラスが割れてしまえば終わりなのに。

 

2.馨の罪と罰と赦し

(罪)盗聴、盗撮、名誉毀損、罪を暴く

(罰)殺される

(赦し)馨の父は、まさしく無辜の人。だからこその優しさが放った言葉が人を傷つけて結果的にあんなことになったのだとしたらそれは罪と言えるのかもしれない。だったら罪を犯していない人なんてこの夜には存在しないんだけど。

どこにいても美鈴と清義のことを突き止めてはいたと思うけど、どうして清義とあんなに仲良くなれたんだろう。目の前にいたら殺しかねないほどの憎悪を向けてもおかしくない人なのに。法律を勉強する上で罪と人を切り離せるようになったからか。二人の境遇に同情する余地があったのか。清義のあまりにもピュアな人柄に惹かれたのか。

司法試験の半年前に嫌がらせを行ったのは、二人に弁護士になってほしくなかったのかな。(誹謗中傷で未来が絶たれるとすればそれはそれで同害報復だよね)どこか自分の計画が潰れることを望んでいたのかもしれない。(怖くなって自首するとか?)

 

3.清義の罪と罰

(罪)殺人未遂、詐欺、傷害

(罰)弁護士バッジ剥奪、自首して罪を償う?

(赦し)そんなに恵まれてはないだろうに美鈴にドロップをあげることのできる清義。家庭教師先の教え子から手紙をもらったり、学生仲間から「セイギ」とあだ名を付けられたり、教授から名指しで相談されたり、あんな劣悪な環境で生きてきたとは思えないくらいな好人物を絵に描いたような人。魂がピュアなのかもしれない。きっと虐待じゃなくて何らかの事情で施設に住むことになったんだろうか。だから馨も清義に友情を感じていたんだろうな。

大学生になってメガネからコンタクトに変えて、優しい下宿のおばさんにも助けられて、自分のことを誰も知らない世界で、人生をやり直したかのように見えた清義。それはただ、過去に蓋しただけの薄氷の上であって。清義自身も大人の被害者だと思ってただろうし、当時は被害者にも家族がいるなんて考えもしなかっただろう。

 

「君を助けるのは暴力じゃなくて知識だ」

この言葉を素直に受け止められる感性を持った清義なら、例え弁護士じゃなくなってもどこでも生きていけるだろう。バッジは無くなっても、頭の中の知識は、弁護士になるための努力は誰にも奪われない。過去に向き合って初めて、自分の人生を生きられるのだとしたら、あの終わり方にも納得できる。罪を償った先に、美鈴を迎えに行きそう。

 

(戯言)

  • 家庭教師の教え子の手紙、真夜中のエア家庭教師を思い出して泣きそうになった……"私"くんも出会う人が違っていれば……
  • 名前が絶妙なんだよね。「みすず」と呼ばれ続けただろう「みれい」とか、「セイギ」なんだけど、「正」じゃなくて「清」とか、清義に合ってる。「馨」も「良い影響を与える人」だし。
  • 無辜ゲーム、原作で読んだときはそんなに思わなかったけど、洞窟ってのもあって法律が定まる以前の前時代的な魔女裁判みたいだった。もちろん、法律に基づいているんだろうけど、人が人を裁く怖さとか、私刑の怖さを視覚的にも訴えるものだった。We Will Rock You(直訳:あなたにゆさぶりをかける)みたいな足踏みも蝋燭も。
  • 法律も危ういところがあるけど、それでもなお、法律でしか裁くことはできないよね。
  • 一番泣いたのは、下宿のおばちゃんのおにぎりでした。良いところ見つけたね。弁護士になっても住んでいるところも良い。(美鈴は引っ越してそう)
  • 「着替え持ってきたよ」の優しいところも好き。新品だとしてもサイズとか知ってるってことだよね。恋愛関係通り越して家族でも。(高校生からサイズ変わらなそうだけど)(恋愛以前に共依存であり、執着だと思っているけど)
  • 三者三様の演技力を堪能させていただきました。花ちゃんがどんどん美しくなるの凄かった。何もかも知ってそうで何も顔に出さない匠海くんも。ちょっとした目線や表情で語る廉くんも。
  • 映画に映っていないところをついつい想像してしまう。美鈴が正気を取り戻して弁護士として清義を弁護するのか(資格喪失要件に当たる?当たらない?)。司法試験合格の日(原作はロースクールで二人だけだったような)には二人でささやかなお祝いしたのかなって。

 

https://youtu.be/74tJ05V8vb0?si=MMBhn9mkTyr_2iIZ

主題歌「愛し生きること」に救われた。

「生きていくこと」が最大の贖罪かもしれない。