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ぼくはまた君に恋するんだろう

小説『真夜中乙女戦争』感想~真っ白な"僕"~

"乙女"って、どういう意味なんだろう。

純粋で、穢れの無い存在?素直で、人を信じやすくて、だからこそ残酷な一面もあって。この小説に出てくる人は全員、それぞれ少しずつ"乙女"だ。

 

真夜中乙女戦争

真夜中乙女戦争

  • 作者:F
  • 発売日: 2018/04/28
  • メディア: Kindle
 

 

最初は"私"を廉くんが演じる意味………と思いながら読んでたけど、"私"って人見知りで臆病で、それなのに、この人って思った人には人懐っこくて、ピュアすぎるくらいピュアで人を信じやすい人なんだよね。廉くんが映画『真夜中乙女戦争』のコメント動画で「真っ白な青年」と"私"のことを言ってたけど、本当にそうだと思う。

 

神戸の私立中高一貫男子校を卒業して、同級生の佐藤くんしか知り合いのいない東京の大学に来た"私"。同級生にも馴染めなくて。要領の良い佐藤くんに若干のコンプレックスを抱きつつ、なんやかんや頼ったりして。周りをバカにすることでプライドを守ってみたり。

大学1年生ってのも絶妙な設定。高校を卒業して社会人でもおかしくない年齢。「子供」じゃないけど、学生で「大人」としては扱われない。未成年だから、事件を起こしても名前は出ないギリギリの年齢。

 

"先輩"もやはり"乙女"だ。自分の美貌も魅力も武器も分かっていて、賢く上手く使えるのに、どこか不器用で。愛情の冷めた彼氏とも別れられずに、それでもなお、人恋しくて行きずりの関係を築いて、傷ついて。外から見たら"ビッチ"なんだろうけど、"愛"を欲しがっている人に思える。

 

"佐藤"もまた"乙女"だと思う。登場人物で唯一の実名だけど、日本で一番多い名字を使っていることから、いわゆる「一般人」「リア充」を煮詰めたような存在。他人をモノのように扱うことで、自分のプライドとブランドを守る。何もかもを"黒服"と"私"に奪われたのに知らずに"黒服"に心酔していく様を滑稽とは言えない。哀しい乙女だ。

 

"黒服"に惹かれる"私"。"黒服"は"私"の欲しいものを全部出してくれるし、"私"の欲しい言葉を言ってくれる。楽しいことも、正しくないことでも。SNSをやっていると、どんな意見でも同調してくれる人がいたり、囃し立てる人がいる世界。そこには無数の"黒服"がいるのかもしれない。「本当の悪人は悪い顔をしていない」というけど、怖いからこそ魅力的な人物だと思う。何もかも諦めたような、飽きたような、理念も持たずただただ流されていく"黒服"もまた、"乙女"なんだろう。

 

"常連"が一番怖かった。映画の話をしていたはずなのに、いつの間にかカルト的な集団になっていて。最初は個人としての顔もバックグラウンドもあったはずなのに、いつの間にか"常連"という名前の個人の顔も無い集団になって。誰も責任を取らないし、意見の違う人は"常連"ではなくなるだけだから、集団としては何も変わらないし。そういうところもSNSと似ているかもしれないね。無自覚で無責任な"乙女"たち。

 

どの人も、愚かで、哀れだけど、その人なりに一生懸命で、いとおしい存在。それこそが"乙女"なのかもしれない。

 

最初はとっつきにくいかもだけど、"黒服"と出会う頃から、ぐんぐん話が進んで面白くなるね。

 

いろんな人の感想を読んだけど、人によって全然感想が違うのが面白いね。恋愛小説としても読めるし、青春小説、ピカレスク小説、様々な面のある小説で一筋縄ではいかないのが面白い小説だなと思う。

映画は変更点もあるようだし、映画ならではの映像美や解釈を楽しみたいな。

 


https://youtu.be/6KifwpjOz60

 

(11/16追記)

ネタバレというか、黒服の正体がどこまで明かされるのかが楽しみでもあり、怖いところです。